テニスの試合を観ていたり、実際にテニスラケットを握ってコートに立ったりしたとき、誰もが一度は抱く疑問があります。「なぜスコアは15、30の次が45ではなく、40なんだろう?」という謎です。
算数的には美しくないこのカウント方式ですが、実はそこには中世ヨーロッパの粋な文化と、プレーヤーだけが知る「心理的な駆け引き」が隠されています。今回は、テニス歴10年の私が肌で感じてきた「40(フォーティ)」の魔力と、その歴史的背景を紐解いていきます。
そもそもなぜ「40」なのか?有力な3つの説
テニスの起源は、12世紀頃のフランスで行われていた「ジュ・ド・ポーム(手のひらの遊び)」に遡ります。当時はまだテニスボールではなく、素手や手袋で球を打ち合っていました。
1. 時計の文字盤を回していた説
最も有名なのが、コートの脇に時計を置き、得点ごとに針を15分、30分、45分と進めていたという説です。しかし、45分だと「フォーティファイブ」とコールするのが長くて面倒だったため、いつしか短く「フォーティ」と呼ばれるようになったと言われています。審判が息を切らしながらジャッジする中、言葉の短縮は必然だったのかもしれません。
2. ジュース(同点)の計算合わせ説
もう一つの有力な説が、ゲームの決着を2ポイント差にするための調整です。45の次にポイントを取ると「60」で1ゲーム終了となりますが、40対40の「ジュース」になった場合、そこから2ポイント連続で取らなければなりません。40から10ずつ進めて「50」「60」とカウントすることで、時計の1周(60分)にちょうど収まるようにした、という数学的な配慮です。
3. 六分儀(ろくぶんぎ)の目盛り説
かつての航海士が使っていた天体観測用の「六分儀」の目盛りが、15、30、40という刻みだったことに由来するというマニアックな説もあります。
プレーヤーが語る「40」の瞬間に訪れる異様な空気感
理屈はさておき、実際にコート上でテニスシューズの音を響かせながら戦っていると、この「40」という数字が持つ特殊な力に気づかされます。
30対30の場面から1ポイント入り、「40-30(フォーティー・サーティー)」となった瞬間、コートの空気は一変します。15から30への変化よりも、30から40への変化の方が、ゴールが急激に迫ってくるような「圧」があるのです。
特に自分のサーブゲームで「40-0(フォーティー・ラブ)」になった時の、あの安心感と慢心が入り混じる感覚。逆に「0-40(ラブ・フォーティー)」でトリプルブレークポイントを握られた時の、絶望に近いヒリつき。15刻みのリズムが「40」でフワッと崩れることで、人間心理に絶妙な揺さぶりをかけてくる。これは現代の効率的な1点刻みのスポーツでは味わえない、テニス特有の情緒だと言えるでしょう。
「0」を「ラブ」と呼ぶ、テニス特有の優しさ
スコアを語る上で欠かせないのが「ラブ(0点)」の存在です。なぜゼロと言わないのか。有力なのは、フランス語で卵を意味する「l’oeuf(ルッフ)」がゼロの形に似ていたからという説。
でも、個人的には「Love(愛)」説を推したいところです。たとえ0点であっても、テニスというスポーツを愛してプレーし続ける。そんな騎士道精神が、テニスウェアに身を包んだプレーヤーたちの心に刻まれている気がしてなりません。
まとめ:不自然だからこそ、テニスは面白い
「40」という数字は、単なるカウントではありません。それは何百年もの歴史が紡いだ伝統であり、試合を劇的に盛り上げるためのスパイスです。
次にテレビで試合を観るときや、テニスバッグを担いで練習に向かうときは、ぜひこの数字の不思議を思い出してみてください。「フォーティ」という短いコールの裏にある、長い歴史とプレーヤーたちの心理戦を感じることで、テニスというスポーツがより一層深く、愛おしいものに変わるはずです。


コメント