テニスの起源を巡る旅:修道院の壁から現代のコートへ続く「手のひら」の記憶

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「ラブ」という不思議なスコア、そして「テニス」という響き。私たちが普段、テニスラケットを握り、黄色いボールを追いかけるとき、その一振り一振りに900年以上の歴史が宿っていることを意識する人は少ないかもしれません。テニスの起源を探ることは、単なる歴史の勉強ではなく、かつての貴族や修道士たちが感じた「ボールを打つ快感」を追体験する旅でもあります。

手のひらで感じた振動:修道院から始まった原初のゲーム

テニスの直接的な先祖は、12世紀のフランスで行われていた「ジュ・ド・ポーム(手のひらの遊び)」に遡ります。驚くべきことに、最初はラケットなど存在しませんでした。修道院の中庭で、修道士たちが自らの「素手」でボールを打ち合っていたのです。

想像してみてください。硬い石造りの壁に囲まれた静かな中庭で、革製のボールが手のひらに当たる鈍い衝撃と熱を。筆者が以前、フランスの古い寺院を訪れた際、その入り組んだ壁の凹凸を見て「ここで跳ね返るボールを追いかけるのは、さぞかしスリリングだったろう」と胸が高鳴ったのを覚えています。この「壁や屋根もコートの一部」という感覚は、現代のテニスにはない、極めて立体的で即興的な遊びだったのです。

「テネ!(Tenez!)」と叫ぶ、高揚感に満ちた宮廷時代

16世紀になると、ゲームは王侯貴族の間で爆発的な人気を博します。イギリスのヘンリー8世が熱狂的なプレイヤーだったことは有名ですが、この頃から素手の代わりに木製ラケットのプロトタイプが登場し始めます。

試合が始まる際、サーバーが「テネ!(受け取れ!)」と叫んだことが、現在の「テニス」という名の由来になったと言われています。ネット越しに相手を挑発するような、あるいは敬意を払うようなその掛け声は、現代のプロの試合で放たれる時速200キロのサーブに込められた気迫の原点と言えるでしょう。

なぜスコアは「15・30・40」なのか?

テニスを始めたばかりの人が必ず抱く疑問、「なぜスコアがそんなに複雑なのか」。これには諸説ありますが、当時の生活に密接に関わっていた「時計の文字盤」を基準にしたという説が最も有力です。

15、30、45(後に言いやすさから40に変化)という刻みは、まさに一分一秒を争う勝負の緊張感を可視化したものでした。また、「ラブ(0点)」の由来がフランス語で卵を意味する「ルーフ(l’oeuf)」から来ているという説も、ボールの形を連想させて実にユーモラスです。テニスボールが地面を跳ねる音を聞きながら、中世の人々が時計の針を動かすようにスコアを数えていた光景を浮かべると、ただの数字に過ぎなかったスコアボードが急にドラマチックに見えてきます。

ローンテニスの誕生と、芝生の香り

私たちが知る現代の「ローンテニス」が形作られたのは19世紀のイギリスです。ウォルター・ウィングフィールド少佐が、屋外の芝生で遊べるキットを考案したことで、テニスは屋内の石造りの建物から、青空の下へと解き放たれました。

初めて天然芝のコートに立ったとき、鼻をくすぐる青草の香りと、クレー(土)コートとは明らかに違う「ボールが滑るような弾み」に驚かされます。1877年に第1回ウィンブルドン選手権が開催されたとき、観客も選手もこの「自然の中での攻防」に新しい時代の到来を感じたはずです。

終わりに:ラケットを握る手に宿る歴史

現代では、テニスシューズの進化やカーボン素材のラケットによって、テニスはかつてないスピード感を持つスポーツとなりました。しかし、ポイントが決まった瞬間のガッツポーズや、ネットを挟んで交わされる視線の鋭さは、800年前のフランスの修道士たちと何も変わっていません。

次にあなたがコートに立つとき、サーブを打つ前に一度だけ、自分の手のひらを見つめてみてください。そこには、歴史を作ってきた無数のプレイヤーたちの鼓動が、確かに息づいています。

記事を読み終えた今、改めてラケットを手に取ってみませんか?その重みは、ただの道具の重さではなく、積み重ねられた時間の重さなのです。

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