「今のはレットだろ!」
試合の緊迫した場面、相手のサーブがネットに当たり、弱々しくこちらのコートにポトリと落ちる。反射的に動きを止めた私を待っていたのは、無情な主審の声でした。
「ポイント、サーバー」
現在、世界のテニス界で導入が進んでいる「ノーレット(No-Let)」ルール。従来の「サーブがネットに触れたらやり直し」という常識が通用しないこのルールは、プレイヤーに技術以上の「メンタルと反射」の変革を迫っています。今回は、実際にノーレット制の試合に身を投じて分かった、そのリアルな手触りと攻略法をお伝えします。
ノーレットルールとは何か?:変わるテニスの常識
そもそもノーレットとは、サーブがネットの白帯に触れて相手のサービスボックスに入った際、そのままプレーを続行するルールです。従来ならやり直し(レット)になるところですが、そのままインプレーとなります。
現在、このルールは以下の場面で目にする機会が増えています。
- ATPネクストジェネレーション・ファイナル:若手の登竜門として新ルールが積極的に試されています。
- 学生テニス(NCAAなど):試合時間の短縮を目的に広く採用されています。
- ITFジュニアの一部大会:将来のプロを見据えた導入が進んでいます。
【実体験】ノーレットの試合で感じた「絶望」と「気づき」
私が初めてノーレット制の大会に出場した際、最も苦労したのは「脳のブレーキ」を外すことでした。
1. 脳が「止まれ」と命令する
長年、テニスラケットを握ってきた人間にとって、ネットにボールが当たる「パチッ」という音は、インプレーの中断を意味する合図でした。
実戦では、ボールが白帯に当たった瞬間、無意識に足が止まります。しかし、ボールは死んでいません。フラフラと落ちてくるチャンスボールに対し、脳が「これはレットだ」と判断している間に、体は一歩も動けなくなるのです。
2. 「アンラッキー」をどう処理するか
ノーレット制では、ネットに当たって軌道が変わったボールを追いかけなければなりません。
一度、相手のサーブがネットに当たり、そのままサイドライン際へポトリと落ちたことがありました。物理的に追いつけないエースです。「運が悪すぎる」とイライラし、テニスシューズでコートを蹴りたくなりましたが、そこで集中を切らしたら負け。このルールでは、運も完全に実力(ルール)の内側なのです。
ノーレットを攻略するための3つの思考法
実際に数試合をこなす中で見えてきた、順応するためのコツを共有します。
足を止めない「0.5秒の予備動作」
ノーレット制では、サーブがネットを越えるまで絶対に集中を切らさないことが重要です。
レシーブの際、スプリットステップをこれまで以上に鋭く踏み、「ネットに当たっても、むしろドロップショットが来たと思って前へ出る」という意識付けが必要です。
サーバー側の心理的優位
逆に、自分がサーバーの時は圧倒的に有利だと感じました。
「ネットに当たってもいい」という安心感は、セカンドサーブのプレッシャーを軽減させます。特に風の強い日など、テニスボールのコントロールが難しい状況では、この心の余裕が大きな差を生みます。
道具への信頼
イレギュラーなボールに素早く反応するためには、自分の手足となる道具のメンテナンスも欠かせません。
グリップが滑って反応が遅れるのを防ぐためにグリップテープを新調し、一歩目の踏み出しを確実にするためにテニスソックスも厚手のものを選びました。こうした「準備」が、不意のレットへの対応力を支えてくれます。
まとめ:テニスの未来を受け入れる
ノーレットルールは、確かに最初はストレスが溜まります。しかし、プレーを止めないことで試合のテンポが上がり、観客としても選手としても「間」に惑わされない緊張感が生まれます。
これからこのルールでプレーする方に伝えたいのは、「ルールは平等である」ということです。
テニスウェアが汗で重くなるほどの激戦の中で、ネットに助けられることもあれば、泣かされることもある。それもすべて含めて、新しいテニスの形なのだと受け入れたとき、あなたのプレーは一段階上の次元へと進化するはずです。
次は、ぜひあなたのテニスバッグに新しいルールへの覚悟を詰め込んで、コートへ向かってください。
さらに詳しい戦術や、ノーレットに適したガットのテンション調整などについて詳しく知りたい方は、ぜひ続きをチェックしてください。


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