テニス歴が長いプレーヤーなら、一度はあの「エンジ色」や「白と青」のフレームに憧れたことがあるのではないでしょうか。2000年代中盤、ロジャー・フェデラーが絶対王者として君臨していた時代、その手元で輝いていたのがWilson nCodeシリーズです。
現代のラケットは高反発でスピンがかかりやすい「楽に飛ぶ」モデルが主流ですが、あえて今、この時代のラケットを手に取る理由は何なのか。かつてメインラケットとして使い込み、今でも時折コートへ持ち出す私の個人的な体験を交えながら、その魅力と現実的な注意点を深掘りします。
独自のしなりと「芯」を感じる打球感
Wilson nCodeシリーズを語る上で外せないのが、ナノテクノロジーによってカーボン繊維の隙間を埋めたという「密度」の高さです。
初めてnSix-One 95でボールを捉えた時の感覚は、今でも鮮明に覚えています。現代のラケットが「パンッ」と弾くなら、nCodeは「グニュッ」と一度ボールをフェイス全体で受け止めてから、重厚な手応えとともに押し出す感覚です。
特にnSix-One Tour 90は、スイートスポットで捉えた際の「ボールの芯を潰している感触」が凄まじく、一度味わうと病みつきになります。この「手のひら感覚」こそが、多くのベテランプレーヤーが現代の最新モデルに乗り換えてもなお、nCodeを忘れられない最大の理由でしょう。
モデル別・使用感のリアルな記憶
nSix-One 95:コントロールの化身
私が最も長く愛用したのがnSix-One 95です。とにかく面安定性が高く、ハードヒットしてもボールが暴れません。フラットドライブでライン際を攻める際、自分の感覚と弾道がこれほど一致するラケットは稀です。ただし、やはり重い。310g(あるいはそれ以上)の重量を振り抜くには、相応の技術と筋力が求められます。
nPro Open:黄金スペックの先駆け
当時、プロスタッフ系が重すぎて扱えなかった層に支持されたのがnPro Openです。現在のWilson Ultraに近い扱いやすさがありましたが、打球感はもっとマイルドでした。ボレーのタッチが非常に作りやすく、ダブルスでネットプレーを中心に組み立てる際にはこれ以上ない武器になった記憶があります。
現代のテニスでnCodeを使うということ
正直に申し上げます。現代のWilson Pro Staff v14やWilson Blade v9と比較すると、nCodeは「厳しい」側面もあります。
- パワーアシストの差: オフセンター(芯を外した時)の失速は、現代モデルの方が圧倒的にカバーしてくれます。
- スピン性能: ストリングパターンの設計思想が異なるため、現代のような「勝手にスピンがかかる」感覚は薄いです。自分のスイングでしっかり回転をかける必要があります。
それでも、nCodeを使う価値は「上達へのフィードバック」にあります。ごまかしが効かない分、良い当たりをした時の感触が明確なので、自分のテニスを矯正するには最適な一本だと言えます。
中古市場で探す際の「落とし穴」
現在、Wilson nCodeを手に入れるには中古市場がメインとなりますが、いくつか注意点があります。
- グロメットの硬化: 発売から20年近く経っているため、グロメットがプラスチックのようにパキパキに割れる個体が多いです。
- カーボンのヘタリ: 外観が綺麗でも、長年ハードに使われた個体はフレームの「コシ」が抜けており、打球感がボヤけていることがあります。
- 偽物の存在: 当時、爆発的にヒットしたためコピー品も多く出回りました。塗装の質感やロゴの配置が微妙に違うものには注意が必要です。
もし状態の良いnSix-One 95やnTourを見つけたら、それはもはや宝探しのようなものです。
最後に:nCodeが教えてくれること
Wilson nCodeは、単なる「古いラケット」ではありません。テニスというスポーツが持つ「自分の力でボールをコントロールする楽しさ」を、その打球音と振動で教えてくれる名器です。
最新のテクノロジーに疲れた時、あるいは自分のストロークを原点から見直したい時、ぜひ一度この時代のウィルソンを手に取ってみてください。そこには、今のラケットが失いつつある「濃密なテニス体験」が待っています。


コメント