ニコニコ動画全盛期、画面端から画面端へと一瞬で消え去る巫女の姿に、誰もが「今の何!?」と目を疑ったはずです。東方Projectの二次創作界隈、特に格闘ゲームツール『MUGEN』や東方非想天則のバグ・改変パッチにおいて語り草となっているのが、通称「ロケット霊夢」です。
単なるデータ上の数値変更を超え、もはや一つの文化として定着したこの「爆速の霊夢」について、当時の熱狂を知る筆者が、実際のプレイ体験や操作感を交えて深掘りします。
ロケット霊夢の正体:なぜ彼女は音速を超えたのか?
「ロケット霊夢」という言葉が指すものは大きく分けて二つあります。一つはWindowsPC用格闘ゲーム『東方非想天則』における特定のバグ、あるいはそれを意図的に再現した状態。そしてもう一つが、MUGENにおける「超高速移動」を特徴とする改変キャラクターです。
共通しているのは、通常のゲームバランスを完全に無視した移動速度。霊夢が空を飛ぶ程度の能力を超越して、文字通りロケットのような推進力で画面内を跳ね回る姿は、当時のファンに強烈なインパクトを与えました。
【体験記】制御不能の快感、実際に操作して分かった「カオス」
筆者が初めてロケット霊夢(MUGENパッチ適用版)を操作したとき、最初に感じたのは「爽快感」ではなく「困惑」でした。
キーボードの方向キーをほんの一瞬叩いただけで、霊夢の姿が消えるのです。次の瞬間には画面の反対側から弾丸のような速度で戻ってくる。まるでレーザーポインターの光を壁に這わせているような、肉眼で追うのが精一杯の挙動。これは格闘ゲームというより、もはや「霊夢という名の粒子」を観測しているような感覚に近かったのを覚えています。
特に印象的だった体験をいくつか挙げます。
- 入力への恐怖感: コンマ数秒の入力ミスが「画面外への永遠の追放」を意味するため、指先に神経を集中させる緊張感。
- 対戦時の笑撃: 友人と対戦した際、お互いにどこにいるか分からなくなり、最終的に「虚無の空間」に向かって技を出し続けるという、シュール極まりない光景が広がりました。
- サウンドの狂気: 移動に合わせて再生されるSEが重なり、ステレオスピーカーから轟音が響くあの「耳が幸せ(物理的に痛い)」体験は、ロケット霊夢ならではの醍醐味です。
MUGENにおける多様な進化:見る専としての楽しみ方
ロケット霊夢の魅力は、自分で操作するだけでなく「観戦」にもありました。ニコニコ動画などのプラットフォームでは、さまざまな製作者が独自の解釈でロケット霊夢を調整。中には、あまりの速さに背景の描画が追いつかず、グラフィックボードの限界を試すようなエフェクトを纏った個体も登場しました。
大会動画で、重厚な「神キャラ」相手に、ハエのようにまとわりつき、一瞬の隙を突いて画面端に叩き込むロケット霊夢の姿は、まさにジャイアントキリングの象徴。あの予測不能な動きに、視聴者コメントが「wwwww」で埋め尽くされる一体感は、今のゲームシーンでもなかなか味わえない独特の熱量がありました。
令和の今、ロケット霊夢を再考する
現在ではゲーミングノートPCの性能も飛躍的に向上し、当時よりも遥かにスムーズに(そしてより速く)彼女を動かすことが可能です。しかし、あの「得体の知れない爆走感」がもたらしたワクワク感は、スペックだけでは語れない、当時の創作コミュニティの熱量が生み出した魔法だったのかもしれません。
もし、あなたが今USBコントローラーを握って彼女を操作する機会があるなら、ぜひ一度、制御を捨ててみてください。画面の端から端へ、予測不能に飛び回るその軌跡の中に、かつて私たちが夢中になった「自由すぎる二次創作の魂」が見えるはずです。


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