2020年、日本のテニス界に激震が走りました。タイヤメーカーとしての知見を活かし、数々の名作を生み出してきたブリヂストンがテニス事業からの撤退を発表したのです。しかし、撤退から数年が経過した今でも、テニスコートを見渡せば赤いロゴのラケットを大切に使い続けるプレーヤーが少なくありません。
なぜ、最新モデルが次々と登場する中で、あえて「型落ち」となったはずのブリヂストンが選ばれ続けるのか。そこには、外資系メーカーには真似できない、日本人の感覚に寄り添った「究極の打感」がありました。
独自の「しなり」と「ホールド感」:タイヤ技術がもたらした奇跡
ブリヂストンのラケットを語る上で外せないのが、ボールを捉えた瞬間の独特なホールド感です。私が初めてブリヂストン X-BLADEをコートで振り抜いた時の衝撃は今でも忘れられません。
最近のラケットはカーボン剛性を高め、弾きを重視する傾向にあります。しかし、ブリヂストンは違いました。インパクトの瞬間にフレームが一度グッと「しなり」、ボールを包み込むような感覚があるのです。まるで自分の手の一部になったかのように、ボールを飛ばす方向や深さをミリ単位で調整できる——。この「安心感」こそが、多くのベテランプレーヤーや競技者を虜にしてきた正体です。
特にブリヂストン Dual Coilシリーズは、パワーと快適性のバランスが絶妙でした。オフセンターで打ってしまった時の嫌な振動が抑えられており、タイヤメーカーならではの振動減衰技術の恩恵を肌で感じることができました。
【体験談】実際に使ってみてわかった「ブリヂストン特有の感覚」
実際に私が長年愛用して感じたのは、数値スペックだけでは測れない「身体への馴染み」です。
外資系ブランドのラケットは、体格の良い海外選手をベースに設計されていることが多く、日本人には少し「硬すぎる」あるいは「重すぎる」と感じることがあります。一方で、ブリヂストンのラケットは、スイング中の空気抵抗や、インパクト時の肘への負担が驚くほど計算されていました。
週に3回、ハードな練習を重ねても肘に違和感が出なかったのは、この独自のフレーム設計のおかげでしょう。ボレーの際も、相手の強打に負けることなく、面をセットするだけで狙った場所へスッと沈んでいく。派手さはありませんが、泥臭くポイントを拾い続ける日本人らしいテニスを、最も強力にサポートしてくれる相棒でした。
今、ブリヂストンの魂を継ぐ選択肢
現在、新品でブリヂストンのラケットを手に入れるのは非常に困難です。中古市場でも程度の良いブリヂストン テニスラケットは高値で取引されています。
もし、あの「しなり」と「精密なコントロール」を求めているのであれば、現在ブリヂストンの技術と販売を引き継いでいるテクニファイバー テニスラケットに注目してみてください。特にテクニファイバー TF40などは、X-BLADEのユーザーが乗り換えても違和感が少ないと言われる名機です。
道具としての信頼性が生む、プレーの余裕
テニスはメンタルのスポーツです。「このラケットなら、どんなボールでもコントロールできる」という信頼感があるだけで、試合の大事な場面でのミスは減ります。
ブリヂストンが私たちに遺してくれたのは、単なる道具としてのラケットではなく、コート上で自分を信じるための「安心感」でした。もし中古ショップの片隅で、あるいは誰かのラケットバッグの中でその姿を見かけたら、ぜひ一度その打感を思い出してみてください。そこには、日本が誇ったモノづくりの魂が今も確実に息づいています。


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