テニスラケットの歴史の中で、これほどまでに「美学」と「精度」を象徴するシリーズがあるでしょうか。HEADの赤き伝説、プレステージ。
「一度は使ってみたい、けれど自分に使いこなせるだろうか?」そんな畏怖の念さえ抱かせるこのラケットですが、最新のオーセチック2.0テクノロジーを搭載したモデルは、伝統の「吸い付く打球感」を維持しながら、現代テニスに必要な扱いやすさを絶妙なバランスで取り入れています。今回は、実際にコートで数時間を共にした私の生々しい体験談を交え、その真価を紐解きます。
第一印象:震えるほどの「面安定性」と静寂な打感
バッグからプレステージ プロを取り出した瞬間、まず目を奪われるのはそのマットで深いボルドーの質感です。コートに立つだけで背筋が伸びるような感覚。
実際にボールを打ってみて最初に驚いたのは、インパクト時の「音」と「振動のなさ」です。最近の黄金スペックラケットにありがちな「パキーン」という弾き感ではなく、「グニュッ」とボールを潰してから放つ感覚。手に伝わる情報は極めてクリアなのに、不快な微振動が一切ありません。
特に、相手の速いサーブをリターンする際、面がブレる気配すら見せない強固な安定感には感動しました。「ここに当てる」と決めた場所に、寸分違わず面をセットできる信頼感。これがプレステージが長年愛される理由なのだと、改めて身体で理解しました。
ストローク:意思を100%反映する「絶対的な支配」
プレステージ MPを使用してストロークを打ち込んでみると、このラケットの性格がより鮮明になります。
- コントロールの極致: 狙ったコースの「さらに数センチ内側」を射抜ける感覚です。逆クロスへのフラットドライブが、糸を引くようにサイドライン際へ吸い込まれていく快感は、他のラケットではなかなか味わえません。
- パワーの自己責任: 正直に言いましょう。ラケットは助けてくれません。自分のスイングスピードがそのままボールの威力になります。しかし、フルスイングしても「バックアウトする気がしない」という安心感があるため、結果としてより攻撃的なテニスが可能になります。
- スピン性能の意外な進化: 18×19という密なストリングパターンを採用しているプレステージ MPですが、オーセチックの効果か、引っ掛かり感は悪くありません。エッグボールを打つというよりは、低く滑るようなスライスや、軌道を抑えた攻撃的なスピンに向いています。
ボレー&サービス:指先の感覚がネットに届く
ネットプレーにおいて、プレステージは魔法の杖に変わります。薄いフレーム(21.5mm前後)のおかげで、手のひらで直接ボールを触っているようなタッチが可能です。ドロップボレーの際、ボールの勢いを「殺す」感覚がこれほど繊細に伝わるラケットは稀です。
サービスに関しても、プレステージ ツアーなどはその振り抜きの良さが際立ちます。ヘッドが走るため、フラットサーブのスピードはもちろん、スライスサーブで外側に逃げていく変化のキレが一段階上がったように感じました。
実際に使ってわかった「プレステージ」を選ぶべき人
このラケットは、決して「楽をしたい」人のためのものではありません。しかし、以下のようなプレーヤーにとっては、これ以上ない最高のパートナーになります。
- 自分の技術を磨き続けたい人: ミスショットが明確に「自分のミス」として伝わってくるため、上達のスピードが上がります。
- コントロールに悩んでいるハードヒッター: 飛びすぎるラケットに不安を感じているなら、プレステージがそのパワーを正確なコントロールへと変換してくれます。
- クラシックな打球感を愛する人: 昨今のカーボン特有の硬さが苦手な方にとって、この「しなり」と「ホールド感」は唯一無二の救いです。
結論:伝説は、より身近で、より鋭くなった
最新のプレステージシリーズは、伝統を壊すことなく、現代のスピードテニスに対応できる「寛容さ」をわずかに手に入れました。
もちろん、スイートスポットを外せば厳しいフィードバックが返ってきます。しかし、芯で捉えた時のあの「一瞬、ボールが消えたような感覚」を一度味わってしまうと、もう他のラケットには戻れません。
あなたのテニスに、単なる「道具」以上の誇りを与えてくれる一本。ぜひ一度、この赤い伝説をその手で確かめてみてください。
次の練習が待ち遠しくてたまらなくなる。それが、プレステージという魔法なのです。


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