「ツアーモデル」という響きには、テニスプレーヤーを惹きつける独特の魔力があります。プロが使い、洗練されたデザインを纏ったそのラケットは、手に取るだけで一段上のステージに上がれるような期待感を抱かせてくれます。
しかし、いざ購入しようとすると「自分にはまだ早いのではないか」「飛ばなくて苦労するのでは」という不安がよぎるのも事実です。今回は、一般モデル(黄金スペック)からツアーモデルへと踏み出した筆者の実体験を交えながら、その真実を紐解いていきます。
テニスラケットの「ツアーモデル」とは?
一言で言えば、ツアーモデルは「ラケットに助けてもらう」のではなく「自分の意志を正確にボールへ伝える」ために設計された道具です。
多くのテニススクールで見かける「黄金スペック(300g/100inch)」のラケットは、フレーム自体がしなって弾き返すパワーを持っています。対してツアーモデルは、プロや競技者が自分の筋力でスイングすることを前提としており、無駄な飛びを抑えた設計になっています。
スペック的には以下のような特徴が挙げられます。
- フレームの厚み: 20〜22mm前後と薄いものが多く、しなりやすい。
- 重量: 310g以上が主流ですが、最近はPrince TOUR 100のように、扱いやすい300g以下のラインナップも増えています。
- フレーム形状: 「ボックス形状」と呼ばれる四角い断面が多く、ボールを捕まえる感覚(ホールド感)に優れています。
【体験談】ツアーモデルに変えて感じた「3つの衝撃」
私が初めて本格的なツアーモデル、Wilson Pro Staffを手にした時の感覚は、今でも忘れられません。
1. 「飛ばない」からこそ「叩ける」安心感
使い始めて数分、最初に感じたのは「なんて飛ばないんだ」という絶望感でした。しかし、慣れてくるうちに気づいたのです。これまではアウトを恐れてスイングを加減していましたが、ツアーモデルならフルスイングしてもコートの隅でボールがグンと沈んでくれる。この「思い切り振れる」という安心感が、ショットの威力を引き出してくれました。
2. 「手のひら感覚」でコースを狙える快感
黄金スペックを使っていた頃は、ボールが面に当たってすぐに弾き飛ばされる感覚でした。しかし、HEAD Prestigeのようなボックス系のツアーモデルは、一瞬ボールが面に「乗る」感覚があります。まるで手のひらでボールを投げているような感覚で、サイドラインぎりぎりへのコントロールが驚くほど容易になりました。
3. オフセンター時の「厳しさ」という名のコーチ
ツアーモデルは甘くありません。スイートスポットを外すと、まるで板で打っているかのようにボールが失速します。最初はストレスでしたが、これが自分のスイングの甘さを浮き彫りにしてくれました。芯で捉える集中力が増し、結果としてフォームが改善されるという副産物がありました。
黄金スペックとの決定的な違い
Babolat Pure Aeroに代表される一般モデルとツアーモデルの最大の違いは、パワーの源泉が「どこ」にあるかです。
- 一般モデル: フレームの反発力で飛ばす。守備時や体勢が崩れた時でも、当てるだけで返ってくれる。
- ツアーモデル: 自分のスイングスピードと重さで飛ばす。攻撃時に最大のパフォーマンスを発揮する。
あなたはどっち?ツアーモデルが「向いている人」
もしあなたが以下のような状況にあるなら、ツアーモデルは最高の武器になります。
- 「もっと振り抜きたい」と感じている: 現状のラケットでアウトミスが多く、振るのを躊躇してしまう人。
- タッチショットを極めたい: ドロップショットやボレーの繊細な感覚を大切にしたい人。
- 上達の壁を感じている: ラケットの助けをあえて減らし、自分の技術でボールをコントロールしたい人。
一方で、体力に自信がない方や、相手の力を利用して楽に返したいカウンターパンチャーの方には、Yonex EZONEのようなパワーのあるモデルの方が恩恵は大きいでしょう。
失敗しないための「賢い移行術」
いきなり315gのハードな仕様に挑むのは、怪我のリスクもありおすすめしません。最近はWilson Bladeシリーズのように、ツアーのフィーリングを持ちつつ、重量を抑えた「L」や「UL」といったモデルが存在します。
まずは290g〜300g程度の「軽量ツアーモデル」から試し、ガットのテンションをいつもより3〜5ポンドほど落としてみてください。それだけで、ツアーモデル特有の「しなり」と「コントロール」を楽しみながら、スムーズに移行できるはずです。
ツアーモデルは、あなたのテニスを映し出す鏡です。自分のスイングがそのままボールに伝わる快感を知ってしまったら、もう元のラケットには戻れないかもしれません。


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