テニスを始めたばかりの頃、私はスポーツ店の壁に並ぶ色とりどりのラケットを前に立ち尽くしていました。「どれも同じに見えるのに、値段が全然違う……」。結局、店員さんに勧められるがままに買った一本が、私のテニスライフの始まりでした。
しかし、数年経って知識が増え、様々なラケットを試打するうちに気づいたのです。カタログに書いてある「反発性能」や「コントロール性」といった言葉以上に、自分の感覚とラケットが「対話」できているかどうかが、上達のスピードを左右するということに。
今回は、スペック表の数字だけでは分からない、実際にコートでボールを打った時の「リアルな手応え」をベースに、後悔しないラケット選びの極意をお伝えします。
スペック表の「読み方」と「打球感」のリアル
カタログに並ぶ数字は、あくまでラケットの性格を示すプロファイルに過ぎません。実際に振ってみた時にどう感じるか、そのギャップを知ることが重要です。
フェイスサイズ:安心感と振り抜きのトレードオフ
一般的に100平方インチが基準とされますが、これを98平方インチに下げるだけで、空気抵抗が驚くほど変わります。
- 体験の差: 100平方インチはどこに当たっても飛んでくれる「包容力」がありますが、風の強い日に振り抜こうとすると、わずかな空気の壁を感じることも。逆に小ぶりなサイズは、芯を食った時の「突き抜けるような快感」がたまりませんが、疲れてきた時のミスショットには容赦ありません。
重量(ウェイト):300gの壁と「後半の粘り」
多くのプレーヤーが手にする300g(黄金スペック)。
- 体験の差: 店頭で素振りをする分には300gは軽く感じます。しかし、試合の第3セット、足が止まりかけた場面で、その20gの差が牙を剥きます。かつて私は見栄を張って315gのツアーモデルを使っていましたが、試合後半にラケットが遅れて出てくるようになり、結局VCOREの300gモデルに戻したことで、勝率が安定しました。
「黄金スペック」は本当に万能? 実際に使ってわかったこと
「面100・重さ300g・厚さ26mm」。いわゆる黄金スペックは、確かに「80点」のプレーを約束してくれます。
私も長年、このスペックの代表格であるPure Driveを愛用してきました。とにかく楽。守備範囲が広がり、当てるだけで深いボールが返ります。しかし、上達するにつれて「自分でもっと叩き込みたい」「もっとボールを潰す感覚が欲しい」と思った時、その「楽さ」が逆に「飛びすぎ」という不安に変わる瞬間がありました。
「万能」とは、裏を返せば「尖った個性がない」ということでもあります。自分がテニスに何を求めているのか——「楽に勝ちたい」のか「理想のショットを追求したい」のか——で、黄金スペックから一歩踏み出す勇気が必要になります。
【体験レポート】ラケットの「寿命」と、見逃しがちな買い替えサイン
ラケットは一生モノではありません。たとえフレームが折れていなくても、素材のカーボンは確実に疲労します。
以前、私は3年使い込んだお気に入りのラケットを「まだ綺麗だから」と使い続けていました。ところがある日、同じモデルの新品を試打して衝撃を受けました。ボールを捉えた時の「芯のある硬さ」と「パワーの伝達」が、自分のものとは別次元だったのです。
- 中折れ・コシ抜けの感覚: 古いラケットは、打球時にどこかボヤけた、振動が手に残るような感覚になります。
- 身体への影響: 劣化して衝撃吸収性が落ちたラケットは、知らず知らずのうちに手首や肘に負担をかけます。「最近、練習後に肘が重いな」と感じたら、それは技術のせいではなく、ラケットの寿命かもしれません。
試打をする時に必ずチェックすべき3つのポイント
最新モデルを試す機会があれば、以下の3点を意識してみてください。
- 「守備」の時に助けてくれるか: 攻めている時はどのラケットも良く感じます。追い込まれた時、スライスやブロックボレーでどれだけ深く返せるかが、本当の相性です。
- オフセンターの打感: 常に真ん中で打てるわけではありません。端に当たった時の不快な振動が少ないもの、例えばEZONEのようなスウィートエリアの広いモデルは、精神的な余裕を与えてくれます。
- 音の好み: 意外と重要なのが「打球音」です。「パキャン」という高い音か、「ゴツッ」という低い音か。自分のイメージする弾道と音が一致すると、タッチの感覚が研ぎ澄まされます。
まとめ:あなたにとっての「最高の一本」の見つけ方
ラケット選びに正解はありませんが、「自分のスイングを肯定してくれる一本」は必ず存在します。
スペック数値に縛られすぎず、まずは色々なラケットをコートで試してみてください。今のラケットに少しでも「重いな」「飛びすぎるな」という違和感があるなら、それは新しい自分に出会うためのサインです。PRO STAFFのようなクラシックなフィーリングを求めるのか、それとも最新テクノロジーで武装したモデルを選ぶのか。
その選択の先に、今まで取れなかったあの一本が取れる瞬間が待っています。


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