テニスショップの棚に並ぶ最新モデル。それと同じ外見をしていながら、中身が全く別物である「プロストック(Pro Stock)」という存在をご存知でしょうか。プロ選手が自身のパフォーマンスを最大化するために使用する、一般流通しない特注ラケット。
かつて私もその「禁断の領域」に足を踏み入れ、数々のHEAD テニスラケットやWilson テニスラケットのプロストックを使い込んできました。今回は、ネット上のスペック表には載っていない、実際に振り抜いた瞬間に体に走る「衝撃」と、手にする際の注意点をリアルに綴ります。
プロストックとは?市販品との決定的な3つの違い
「プロストック」と一口に言っても、その実態は非常に奥が深いです。市販品(リテール品)との大きな違いは、主に以下の3点に集約されます。
1. ペイントジョブ(PJ)という魔法
テレビで見るスター選手が最新のデザインを使っているように見えても、実は中身は10年前の名器……ということが多々あります。これを「ペイントジョブ」と呼びます。メーカーは最新モデルのプロモーションのため、中身は変えずに外見だけを最新の最新テニスラケットのデザインに塗り替えて提供しているのです。
2. カスタマイズ前提の「素体」設計
市販品は買ってすぐに使える完成品ですが、プロストックは「素材」に近いです。重さは市販より軽く作られており、そこからグリップ内部にシリコンを詰めたり、フレームの12時方向に鉛テープ(リードテープ)を貼ったりして、数グラム単位で選手の要望に合わせます。
3. モールド(型)とカーボンの質
市販品よりも高品質なカーボンが使用されているケースが多く、打感のクリアさが際立ちます。また、とっくに生産終了したはずの往年の名器の型が、プロのためだけに工場の奥底で使われ続けていることもあります。
【体験レビュー】プロストックを打って分かった「異次元」の感覚
私が初めてHEAD Prestigeのプロストック(コード名:PT57A)をコートで振った時のことは、今でも忘れられません。
掌に伝わる圧倒的な「情報量」
市販のラケットが「パンッ」と弾く感覚なら、プロストックは「ムニュッ」とボールがフレームに吸い付き、そこから自分の意思で押し出すような感覚です。ボールのどこを捉え、どれくらい回転がかかったか。その情報が、指先を通して脳にダイレクトに伝わってきます。
雑味のない「クリアな打球感」
不快な振動が一切ありません。芯を喰った時の音は重厚で、まるで上質な楽器を奏でているような心地よさがあります。この打感を一度知ってしまうと、市販品の打感がスカスカに感じてしまう……これこそが「プロストック沼」の始まりです。
スイートスポットの「厳しさ」
もちろん、いいことばかりではありません。市販品が最新技術で「ミスを補正してくれる」のに対し、プロストックは非常に素直です。外せば飛ばない、振らなければ飛ばない。ごまかしが効かない「研ぎ澄まされた刀」のような厳しさがあります。
プロストックを手に入れるメリット・デメリット
憧れのラケットを手にする前に、冷静に秤にかける必要があります。
メリット
- 所有欲の極致:世界ランク上位選手と同じ道具を使っているという、この上ない高揚感。
- 究極の打感:市販品では絶対に再現できない、しなりと戻りのバランス。
- 自分だけの調整:自分に合わせた究極のカスタムラケットを作成するベースになる。
デメリット
- 価格の高さ:1本でテニスシューズが何足も買えるどころか、10万円を超えることも珍しくありません。
- 替えが利かない:万が一フレームが折れた場合、同じスペックのものを探し出すのは至難の業です。
- スペックの罠:選手の実使用品は、一般人には重すぎて扱えない(スイングウェイトが極端に高い)場合があります。
信頼できる入手ルートと、偽物への警戒
「プロストック」という言葉を悪用した偽物も、残念ながら市場には出回っています。
- 海外の専門サイト:ヨーロッパなどのプロストック専門店。最も信頼性が高いルートです。
- 中古市場・フリマアプリ:テニスバッグの中から掘り出し物が出ることもありますが、コードの刻印やグロメットの形状を判別できる知識が必要です。
- マニア間のコネクション:SNSなどでコレクターと繋がり、譲ってもらうケース。
結論:あなたはプロストックに手を出すべきか?
もしあなたが、「テニスを単なるスポーツではなく、道具を含めた探求」と考えているなら、一度は体験する価値があります。たとえ使いこなせなかったとしても、プロが戦っている「真の世界」を体感することは、あなたのテニス観を大きく変えてくれるはずです。
まずは、自分のラケットにオーバーグリップテープを巻く感覚からこだわり、道具への感度を高めることから始めてみませんか。その先に、プロストックという究極の選択肢が待っています。


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