部活動に明け暮れた学生時代、私の足元にはいつもあの「アシックスストライプ」がありました。当時は単にかっこいい、走りやすいという理由で選んでいましたが、大人になりその社名の由来を知ったとき、一足のシューズに込められた重みに衝撃を受けたのを覚えています。世界的なスポーツブランド「ASICS(アシックス)」という名に隠された、魂を揺さぶる哲学についてお話しします。
偶然ではない、一通の手紙から始まった「ASICS」の語源
多くの人が、アシックスは創業者の名前か何かだと思っているかもしれません。しかし、その語源は遥か古代ローマの知恵にあります。
ラテン語の格言、“Anima Sana in Corpore Sano”。
この頭文字を繋げたものが「ASICS」です。日本語に訳すと「健全な身体に健全な精神があれかし」という意味になります。
実は、元々の格言は「精神」を意味する「Mens」を用いた「Mens Sana…」でした。しかし、創業者の鬼塚喜八郎氏が、戦後の混迷期に青少年の育成に悩んでいた際、知人の軍人から「Anima(生命、活力ある心)」という言葉に置き換えて贈られたといいます。この「Anima」という一語への変更こそが、単なる道具としての靴を超え、人々の生きる活力(生命)を支えるというアシックスのアイデンティティになったのです。
オニツカタイガーからアシックスへ:1977年の決断
かつて、このブランドは「オニツカタイガー」の名で世界を席巻していました。オニツカタイガーのシューズは、あの映画『キル・ビル』で主演女優が履いたことでファッションアイコンとしても定着しています。
では、なぜ絶頂期とも言える1977年に社名を変更したのでしょうか。それは、3社の対等合併という大きな転換点において、創業の原点である「スポーツを通じて青少年の健全な育成に貢献する」という理念を、より明確に世界へ発信するためでした。
単なる企業名の統合ではなく、哲学の統一。私が初めてアシックス ランニングシューズに足を入れたときに感じた、あの包み込まれるような安心感は、こうした「人の心身を支える」という一貫した哲学から生まれているのだと確信しています。
現代に息づく「a」のシンボルと哲学
今では当たり前のように見かける「a」のロゴマーク。これもまた、語源であるラテン語の哲学を視覚化したものです。スポーツの躍動感や、無限に広がる可能性を表現しており、アシックス スニーカーのデザインの随所にその躍動感が宿っています。
最近、仕事で行き詰まったときにアシックス ゲルカヤノを履いて夜の街を走ってみました。クッション性に優れたソールが地面を蹴るたびに、不思議と沈んでいた気持ちが軽くなっていくのを感じました。まさに「健全な身体に健全な精神があれかし」。ブランド名が単なる記号ではなく、履く人の体験にまで昇華されていることに改めて気づかされた瞬間でした。
語源を知ることで、一歩の価値が変わる
私たちが何気なく選んでいるアシックス ウォーキングシューズやウェア。その一つひとつに、戦後復興から続く「心身の健康への祈り」が込められています。
次にあなたがアシックスのシューズを履くときは、ぜひその語源を思い出してみてください。その一歩は、単なる移動ではなく、あなたの心と体を整えるための大切な儀式になるはずです。世界中のアスリートだけでなく、日々を懸命に生きる私たちの足元を支え続ける。その一貫した姿勢こそが、アシックスが世界中で愛され続ける本当の理由なのです。


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