クローゼットの奥から、父が昔使っていたというFILAのヘアバンドが出てきた。少し色褪せているけれど、今のスポーツショップに並んでいる洗練されたウェアにはない、独特の「強さ」と「華やかさ」がそこにはあった。
テニスウェアの歴史を紐解くと、それは単なるスポーツの道具の進化ではなく、自由を勝ち取ってきた人間たちの物語そのものだと気づかされる。
貴族の嗜みから始まった「純白の制約」
かつて、テニスは選ばれた人々の社交場だった。19世紀後半、コートに立つ女性たちは床まで届くロングドレスに身を包み、コルセットで締め付けられていたというから驚きだ。
現代の吸汗速乾 Tシャツに慣れきった私たちが当時の格好でサーブを打とうものなら、一度でギブアップしてしまうだろう。
そんな「白一色でなければならない」「肌を見せてはならない」という古い常識を打ち破ったのが、1920年代のスター、スザンヌ・ランランだ。彼女が膝丈のスカートでコートに舞い降りたとき、テニスウェアは初めて「運動するための服」としての自由を手に入れた。
70年代から80年代、コートはランウェイになった
私が最も惹かれるのは、1970年代から80年代にかけての黄金期だ。この時代、テニスウェアは爆発的なファッション性を獲得した。
ビヨン・ボルグが着用したフィラ ポロシャツのストライプ柄や、ジョン・マッケンローが愛したセルジオ・タッキーニの鮮やかな配色は、今見ても全く古臭さを感じない。
当時のウェアはコットン主体で、汗を吸うとずっしりと重くなった。それでも、あの短いショートパンツとヘアバンドの組み合わせには、現代のハイテクウェアが失ってしまった「無骨なエレガンス」が宿っている。実際にヴィンテージのアディダス オリジナルスを古着屋で見つけて着てみると、背筋が伸びるような独特の緊張感がある。
90年代の反逆と、現代のリバイバル
90年代に入ると、アンドレ・アガシがデニムのショーツやネオンカラーのウェアで登場し、伝統を重んじるテニス界に衝撃を与えた。この頃から、素材は徐々にポリエステル素材へとシフトし、機能性がデザインを追い越し始める。
そして今、街中を見渡せば、再び「テニスレトロ」が熱い。
フレッドペリーのポロシャツをさらりと着こなす若者や、スタンスミスを履いて歩く人々。彼らが纏っているのは、かつてコートの上で戦った選手たちの情熱の残滓なのかもしれない。
変わらない「テニスらしさ」を纏う
時代とともに素材は軽くなり、動きやすさは究極まで高まった。けれど、どれだけ時間が経っても、テニスウェアの根底にある「清潔感」と「凛とした佇まい」は変わらない。
もし、あなたが次にコートに立つなら、あえてクラシックな要素を取り入れてみてはどうだろう。ラコステのワニのロゴを胸に、少しだけ昔の選手たちに思いを馳せてみる。すると、いつものストロークが、少しだけ優雅になるような気がするのだ。


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