「プロのテニスプレーヤーを一番近くで支えたい」「テニスに関わる仕事で食べていきたい」
そう考えたとき、真っ先に思い浮かぶのがテニストレーナーという職業ではないでしょうか。しかし、実際にどうすればなれるのか、現場ではどんな苦労があるのか、具体的なイメージが湧きにくいのも事実です。
私はこれまで、ジュニア選手から日本ランキング上位のプロ選手まで、数多くの現場に帯同してきました。この記事では、WEB上の綺麗な情報だけでは見えてこない「テニストレーナーのリアルな日常」と、最短で現場に立つためのステップを、私の実体験をベースにお伝えします。
テニストレーナーの仕事は「マッサージ」だけではない
よく勘違いされるのですが、私たちの仕事はコートサイドで選手の体を揉むことだけではありません。試合中、選手の動きを凝視し、「あ、今の踏み込みで左足首に違和感が出たな」と瞬時に察知する洞察力が求められます。
具体的な仕事内容は多岐にわたります。
- コンディショニングと疲労回復: 激しいラリー後のケア。時にはマッサージガンを使用して深層筋肉にアプローチすることもあります。
- テニス特有の怪我への対応: テニス肘(外側上顆炎)や、ハードコート特有の膝への負担を軽減するためのテーピング。
- 試合前のアップ指導: 選手の心拍数を上げ、一歩目の反応を速くするための動的ストレッチ。
現場で一番大切なのは、選手の「言葉にならない違和感」を汲み取ることです。負けが込んでいる時の選手のメンタルは非常に繊細です。あえて体に触れず、雑談だけで終わらせる判断が必要な日もありました。
必要な資格と「現場で生き残る」ための武器
正直に言いましょう。テニストレーナーを名乗るだけなら、資格がなくても明日から可能です。しかし、プロの現場や強豪校のチームに食い込むなら、以下の資格は「信頼のライセンス」となります。
- 日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT): 日本のスポーツ現場では最高峰の信頼度。
- 理学療法士(PT): 医療的なバックボーンがあることは、怪我からの復帰プロセスにおいて圧倒的な強みになります。
- NSCA-CPT / CSCS: トレーニング理論の基礎として必須です。
ただ、資格以上に重要なのが「テニスという競技への深い理解」です。
サーブの回旋動作でどの筋肉が主導権を握るのか、バックハンドの打点に遅れた時にどこに負荷がかかるのか。自分自身がラケットを握り、ヨネックスのラケットでボールを打つ感覚を知っていることは、選手との共通言語を持つ上で大きな武器になります。
【体験談】過酷だけど辞められない、遠征帯同の裏側
テニストレーナーの醍醐味といえば、地方大会や海外遠征への帯同です。一見華やかに見えますが、その内情はかなりハードです。
朝は選手より早く起き、宿泊先近くの公園でアップの場所を確保。試合が長引けば、昼食を食べる暇もありません。夜はホテルの狭い部屋で、ポータブルの施術ベッドを広げて深夜までケアを行います。
私が以前、タイの遠征に帯同した時のことです。気温40度を超える酷暑の中、選手が痙攣を起こしました。その時、氷の準備や水分補給のタイミング、そして何より「このトレーナーがそばにいれば大丈夫だ」という安心感を選手に与えられるかどうかが、勝敗を分けました。
その選手が最後のセットを取り切り、握手を交わした瞬間の震えるような感覚。あの喜びを知ってしまうと、どんなに過酷でも「また明日もコートに立ちたい」と思ってしまうのです。
テニストレーナーの気になる年収とキャリアの作り方
夢のある話ばかりではありません。金銭面の現実はしっかり把握しておくべきです。
- 会社員(テニススクール・接骨院): 年収300万円〜500万円程度。安定はしていますが、現場帯同のチャンスは限られます。
- フリーランス・帯同契約: 日給1.5万円〜3万円が相場。有名プロ選手と専属契約を結べれば、年収1,000万円を超えるケースもありますが、ごく一部です。
まずは病院やフィットネスクラブで経験を積みながら、週末に地域のジュニアチームのサポートから始めるのが現実的なスタートラインです。そこで実績を作り、口コミで「あのトレーナーに頼むと怪我が減る、動きが良くなる」という評判を広げていくのが、王道のキャリアパスです。
まとめ:一歩踏み出すあなたへ
テニストレーナーは、決して楽な仕事ではありません。休みは不定期で、自分の時間も削られます。それでも、自分がケアした選手が最高のパフォーマンスを発揮し、コートで輝く姿を見れるのは、この仕事だけの特権です。
まずは、身近な選手の体をケアすることから始めてみてください。キネシオロジーテープを一巻きするその手から、あなたのトレーナー人生は始まります。
現場の温度感を知り、学び続けること。その先に、憧れのセンターコートが待っています。


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