テニスのプレー中、ふとラケット面に目をやるとガットがぐにゃりと曲がっている。「さっき直したばかりなのにな」と、ため息をつきながら指でガットを整える――。テニスプレーヤーなら誰もが経験する光景です。
実は、ガットがずれる現象には、テニスの上達に関わるポジティブな理由と、道具の限界を示すネガティブな理由の両面があります。今回は、私が長年のプレー経験で感じた「ガットのズレ」との付き合い方や、その対策について深く掘り下げていきます。
1. なぜガットはずれるのか?「上手くなった証拠」と言われる理由
初心者の頃は、ガットがずれることなんてほとんどありませんでした。しかし、ボールを厚く捉え、スピンを意識し始めた頃から、目に見えてガットが動くようになったのを覚えています。
スナップバックという魔法
現代テニスにおいて、ガットが動くこと自体は決して悪いことではありません。打球時にガットがズレ、元の位置にパチンと戻る動きを「スナップバック」と呼びます。この動きが強烈なスピンを生み出します。つまり、ガットがずれるのは、あなたがボールをしっかりと潰して打てている証拠でもあるのです。
ガットが戻らなくなる「寿命」のサイン
問題は、ズレたガットが「戻らなくなる」ことです。
- ノッチ(溝)の発生: 縦糸と横糸が擦れ合い、交差点に深い溝ができます。こうなると、ガットが溝にハマって動けなくなります。
- テンションロス: ガットが伸び切ってしまうと、元の位置に戻ろうとする復元力が失われます。
2. プロが1ポイントごとにガットを直す「本当の理由」
テレビでプロの試合を見ていると、フェデラーやナダルもポイント間に必ずと言っていいほどガットをいじっています。「プロなら毎回張り替えているからズレないのでは?」と思うかもしれませんが、彼らがガットを触るのには、技術面と精神面の両方に理由があります。
面圧を均一に保つ
ガットが1ミリずれるだけで、次に打つ時の反発力やスピンの掛かり方は微妙に変化します。極限の精度を求めるプロにとって、ガットを整えることは「ラケットを初期状態に戻す」作業なのです。
究極のルーティン
私自身、試合でミスが続いた時に意識してガットを丁寧に直すようにしています。これを「クワイエット・アイ」効果と呼ぶこともありますが、手元の一点に集中することで、直前のミスによる動揺をリセットし、次のポイントへの集中力を高めることができます。ガットを直す指先の感覚が、メンタルの安定剤になるのです。
3. 「ガットのズレ」を最小限にするための実践的対策
「あまりにもズレすぎて集中できない」という方のために、私が実際に試して効果があった対策を紹介します。
ガットの選び方を変える
摩擦が少ないガットを選ぶのが一番の近道です。ポリエステル素材の ルキシロン 4G や バボラ RPMブラスト は、表面のコーティングが優秀で、比較的スナップバックが維持されやすい傾向にあります。
逆に、ナイロンガットは構造上ズレやすく戻りにくい性質があります。もしナイロンの打球感が好きで、かつズレを抑えたいなら、テクニファイバー X-ONE バイフェイズ のような高密度なマルチフィラメントを試す価値があります。
メンテナンスアイテムの活用
「まだ張り替えたくないけれど、ズレが気になる」という時の裏技が、ガット専用の潤滑剤です。ミラフィット のような液体を交差点に塗るだけで、驚くほどガットの動きがスムーズになり、スナップバックが復活します。
張り替え頻度の見直し
結局のところ、ガットのズレが戻らなくなったら「性能の賞味期限切れ」です。
- ポリユーザー: 1ヶ月(素材が硬くなり、戻らなくなる)
- ナイロンユーザー: 2〜3ヶ月(ノッチが深くなりすぎる)この期間を目安に テニス ストリング を新しくすることで、常に安定したパフォーマンスを発揮できます。
4. まとめ:ガットのズレはラケットからのメッセージ
ガットがずれるのは、あなたが一生懸命ボールを打っている証です。しかし、そのズレが戻らなくなった時は、ラケットが「もう限界だよ」と教えてくれているサイン。
指先でガットを整える時間を、単なる「手間」ではなく、次のプレーへの「準備」や「集中」の時間に変えてみてください。道具をいたわる気持ちが、きっとあなたのテニスを一段上のステージへ引き上げてくれるはずです。


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