テニスラケットの歴史において、ここまで惜しまれつつ市場から消えていった名機があったでしょうか。2020年、ブリヂストンがテニス事業から撤退するというニュースが流れた際、全国のブリヂストン X-BLADE愛好家(通称:エックスブレード派)の間に激震が走りました。
私自身、ジュニア時代から数々のラケットを使い込んできましたが、X-BLADEの持つ独特の「吸い付くようなホールド感」は、他のどの海外ブランドでも代替できない特別なものでした。今回は、今なお中古市場で根強い人気を誇るX-BLADEの魅力を、実体験に基づいたリアルな視点で振り返ります。
一度掴んだら離さない、魔性の「ホールド感」
X-BLADEを語る上で外せないのが、インパクトの瞬間に感じる「球持ちの良さ」です。最近のラケットはカーボン技術の進化により、少ない力でボールを弾き飛ばす「パワー系」が主流です。しかし、X-BLADEはその真逆を征きます。
ハードヒットした瞬間、フレームがグニャリとしなり、ボールをガットの奥深くで包み込む感覚。まるで手のひらでボールを直接投げているかのようなコントロール性能は、一度味わうと病みつきになります。特にボレーの際、狙ったコースへ「置く」感覚がこれほど鋭いラケットには、その後なかなか出会えていません。
歴代モデルから紐解く、進化とこだわり
X-BLADEは、世代ごとに異なる表情を見せてくれました。
BXシリーズ(最終モデル)
シリーズ最高傑作との呼び声高いX-BLADE BX。これまでの「しなり」に加え、適度な「弾き」が融合されました。オフセンターで打った際もパワーロスが少なく、現代テニスのスピード感にも対応できる完成度。最後にして究極のノーマルと言える一本です。
VI / VI-Rシリーズ
ここから好みが分かれるラインナップになりました。ボックス形状の「VI」は、伝統的なX-BLADEらしいしなりを重視。一方、ラウンド形状の「VI-R」はスピン性能とパワーをプラス。私はフラットドライブで攻めるタイプだったので、X-BLADE VIのコントロール性に何度も救われました。
ゼロ・シリーズ
薄ラケ好きを虜にした「ゼロ」。極限まで薄いフレームが生み出すしなりは、まさに玄人好み。使いこなすには相応のスイングスピードが必要ですが、芯を食った時の快感はまさに「ゼロ距離」でボールを叩いているような衝撃でした。
体験談:なぜ私たちは「難民」となったのか
事業撤退後、多くのX-BLADEユーザーが「次の一本」を求めて彷徨いました。私もその一人です。他メーカーのラケットを試すと、確かによく飛ぶし、スピンもかかります。しかし、決定的に足りないのが「情報量」でした。
インパクトの感触が手に伝わってくる精度、ボールが離れるタイミングの分かりやすさ。X-BLADEには、日本人の感性に訴えかける繊細なフィードバックがありました。この「安心感」こそが、試合の勝負どころで振り抜ける勇気をくれていたのだと、手放してから改めて気付かされたのです。
今、X-BLADEを手に入れるなら
現在、新品を入手するのは極めて困難ですが、メルカリやヤフオクなどの二次流通市場では、今も大切に扱われてきた個体が出回っています。
探す際のポイントは「グロメット」の状態です。ブリヂストンが撤退しているため、消耗品であるグロメットの新品交換が難しくなっています。フレームの傷よりも、パーツの劣化具合をチェックするのが、長く付き合うためのコツです。
未来への選択:DNAを継ぐラケットたち
どうしてもX-BLADEに近い感覚を新品で味わいたいなら、かつてブリヂストンが提携していたテクニファイバー TF40やテクニファイバー T-Fightが最も近いフィーリングを持っています。また、国産のこだわりという点ではヨネックス パーセプトもしなりとコントロールのバランスにおいて、良き後継候補になるでしょう。
ブリヂストン X-BLADEという名前はカタログから消えても、その打球感の記憶は私たちの腕に刻まれています。この伝説的なラケットが教えてくれた「ボールを操る楽しさ」を胸に、今日もコートに立ち続けたいと思います。


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