テニスコートでボールを打つという行為が、これほどまでに「官能的」であった時代が他にあったでしょうか。1980年代、世界の頂点を極めたジョン・マッケンローやシュテフィ・グラフの手に握られていたのは、他でもないダンロップ MAX200Gでした。
今のカーボンラケットに慣れたプレーヤーがこのテニスラケットを手に取ると、まずその「重み」と「密度の濃さ」に驚くはずです。現代のラケットが「弾いて飛ばす」道具だとすれば、MAX200Gは「掴んで運ぶ」ための精密機械。今回は、今なおテニス愛好家の心を離さないこの伝説の名器について、その唯一無二の魅力と体験を深く掘り下げていきます。
魔法の打球感を生んだ「IMA製法」の衝撃
MAX200Gを語る上で欠かせないのが、インジェクション・モールディング(射出成型)という特殊な製造方法です。当時のラケットはカーボンシートを巻いて作るのが主流でしたが、ダンロップはナイロン樹脂とグラファイトを金型に流し込む手法を採用しました。
実際に打ってみるとわかりますが、フレームのどこにも「空洞感」がないのです。インパクトの瞬間、ボールがガットに吸い付き、フレーム全体がしなってからゆっくりと押し出す感覚。この「ホールド感」こそが、マッケンローのあの魔法のようなドロップボレーや、針の穴を通すようなパッシングショットを支えていたのだと確信させてくれます。
スペックから読み解く「真の扱いやすさ」
数値だけを見れば、現代の基準では「難しいラケット」に分類されるでしょう。
- フェイスサイズ:84平方インチ
- 重量:約350g前後(個体差あり)
しかし、実際にコートで振り抜いてみると、不思議なほど重さを感じません。絶妙なトップライト設計により、ボレーの場面でも素早い反応が可能です。もちろん、スイートスポットは今のダンロップ CX200などの最新モデルに比べれば極小です。しかし、芯を喰った時の「カシュッ」という独特の打球音と共に放たれる低弾道のショットは、現代のラケットでは決して味わえない快感をもたらしてくれます。
現代のプレーヤーがMAX200Gから学べること
今のスピン全盛のテニスにおいて、MAX200Gで勝ち続けるのは至難の業かもしれません。ですが、このラケットは私たちに「丁寧なインパクト」の重要性を教えてくれます。力任せに振るのではなく、ラケットの重さを利用し、ボールの勢いを殺さずに運ぶ。この感覚を一度知ってしまうと、最新のテニス用品選びの基準すら変わってしまうほどの影響力があります。
もし中古市場やヴィンテージショップで状態の良いMAX200Gを見かけたら、迷わず手に入れることをおすすめします。グロメットの劣化には注意が必要ですが、それを差し引いても、このラケットが持つ歴史の重みと、掌に伝わる至高の情報量は、あなたのテニス人生をより豊かなものにしてくれるはずです。
かつての王者が愛した「魔法の杖」。それは、効率やスピードばかりを追い求める現代のテニスが忘れてしまった、純粋な「打つ喜び」を今も鮮明に伝えてくれています。


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