テニスコートで隣のプレーヤーが持っているラケットを見て、「あれ、カタログに載っていないカラーリングだな?」と目を奪われたことはありませんか。あるいは、憧れのプロが最新モデルを使っているはずなのに、よく見るとフレームの形状が旧モデルのままに見える……。その違和感の正体こそが「ペイントジョブ」です。
私自身、このディープな世界に足を踏み入れ、実際に自分のラケットを塗り替えてみた経験から、その魅力と恐ろしい落とし穴についてお話しします。
プロが「中身」を隠してまで最新のデザインを纏う理由
プロテニスプレーヤーにとって、ラケットは体の一部です。たとえメーカーが数年おきに新作を発表しても、ミリ単位の感覚を重視するトップ選手は、慣れ親しんだテニスラケット プロストックの感触を簡単に手放すことはできません。
しかし、スポンサー契約上、最新モデルを宣伝する義務があります。そこで行われるのが、中身は旧モデル(あるいは特注のプロストック)のまま、見た目だけを最新モデルに塗り替える「ペイントジョブ」です。
私たちがテレビで見ている「最新ラケット」の多くは、実は選手がジュニア時代から愛用している「魔法の杖」に最新の化粧を施したものかもしれません。このプロの世界の裏側を知ると、道具への愛着がより一層深まります。
【実践体験】世界に一本だけの相棒を作る「DIY塗装」のリアル
「プロと同じように、自分だけのオリジナルカラーで打ちたい!」という衝動を抑えきれず、私は中古で購入したヨネックス VCOREをベースに、自分なりのペイントジョブに挑戦しました。
1. 苦行のサンディングと脱脂
まずは元の塗装を剥がす作業です。耐水ペーパーを使い、ひたすらフレームを削ります。これが想像以上に過酷です。塗装を完全に剥がすとフレームが数グラム軽くなるのですが、この「素の状態」の軽さに驚きました。
2. カラーリングと焦り
タミヤ スプレーカラーを手に、慎重に薄く塗り重ねていきます。一度に厚塗りすると液ダレして台無しになるため、忍耐が必要です。自分の好きなマットブラックに変貌していくラケットを見た時の高揚感は、既製品では絶対に味わえないものでした。
3. クリアコートで仕上げ
最後にウレタンクリアスプレーで保護層を作ります。これでツヤが出て、一気に「製品」のような風格が漂います。
塗装を終えて分かった「たった5g」が変える打球感
完成した自作ペイントジョブ・ラケットを握り、コートへ向かいました。見た目は最高。誰とも被らない、漆黒のラケットです。しかし、数球打った瞬間に異変に気づきました。
「重い。そして、飛ばない……。」
塗装による重量増はわずか5〜8g程度でしたが、ラケットの先端付近に塗料が乗ったことで、スイングウェイトが劇的に変わってしまったのです。たった数グラムの差で、いつものタイミングで振っているはずが、ボールがわずかに遅れて飛んでいく感覚。
「ペイントジョブは、性能を犠牲にする覚悟が必要なカスタマイズである」
これが、私が実際に手を動かして得た最大の教訓です。もしあなたが「性能を一切変えたくない」のであれば、ラケット用保護テープなどの簡易的なカスタマイズに留めるか、バランス調整まで行えるプロの塗装ショップに依頼することをおすすめします。
まとめ:ペイントジョブは「究極の自己満足」
ペイントジョブは、単なる色塗りを越えた「道具へのこだわり」の表明です。プロが勝利のために中身を隠すように、アマチュアは自分の個性を表現するために外見を変える。
自分で塗装したラケットは、確かに少し扱いにくくなりました。しかし、ラケットバッグからそれを取り出すたびに、他の誰でもない「自分の道具」であるという誇りが、プレーのモチベーションを上げてくれることも事実です。
あなたも、性能の変化という「リスク」を承知の上で、この魅惑的な世界を覗いてみてはいかがでしょうか。


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